老舗×跡継ぎのモヤモヤ! “継ぎたくない”を越えて。創業150余年のうなぎ店6代目の選択
幕末から明治にかけて活躍した勝海舟も通ったという創業150余年のうなぎ店、Uさんはそこの長男として生まれました。小さい頃から「継ぐんでしょ?」と周囲に言われ続け、反発心を抱いた時期もあったと言います。それでも今、6代目として店を守るUさん。自らを「天邪鬼(あまのじゃく)」と称する彼が、“あらかじめ用意された未来への違和感”を、“前向きな受容”へと変えていった、その道のりを伺いました。
PROFILE
U.Tさん
42歳
神奈川県横須賀市で150年続くうなぎ店に3人きょうだいの長男として生まれる。高校卒業後、調理師専門学校の和食コースで2年間学び、板前として横浜の懐石料理店で8年間勤務。横浜のうなぎ店に転職して10年がたった2022年、5代目である父の体調不良をきっかけに、6代目として実家のうなぎ店を継承。現在はUさんが主となり、父母とともにお店を切り盛り。自ら近隣の店舗に声をかけて、マルシェイベントの主催も行う。パートナーと結婚し、2人暮らし。

“やりたいことがない”と選んだ料理の道
それでも頭の片隅には、家業への思いが
高校卒業後の進路に調理師の専門学校を選択したのは、実家のうなぎ店を継ぐ前提があってのことだったのでしょうか。
それはまったくなくて、特にやりたいことがなかったから、“じゃあ、調理師学校に行こうかな”くらいの動機でしたね。食には少し興味があったけど、自分から進んで何かを作ったことはほぼなかったですし。でも、こういう家なので、昔からいろんな人に「うなぎ屋を継ぐんでしょ?」と言われて育ってきたんですよ。僕は天邪鬼なので、そういうふうに決めつけられることがすごく嫌で、“やりたくないなぁ……”とずっと思っていました。高校卒業後の進路を決めるときは、 “絶対にうなぎ屋を継ぐ!”という固い意思もないし、かといって“絶対に継がない!”という意思もない。“家業が嫌だ”と思っているけど、“結局は継ぐんだろうな”とも思っている、天邪鬼な感じでした(笑)。だから僕が調理師の専門学校に行くと言ったとき、両親は“やる気があったんだ!?”と驚いたと思うし、ちょっとうれしかったのかもしれない。ただ、両親から「継いでほしい」と言われたことは1回もないんですよ。
調理師専門学校を卒業後、懐石料理店で8年勤務してから、うなぎ店に転職した経緯を聞かせてください。
「家業が嫌だった」と言いつつ、“もし将来的にずっとうなぎ屋で働くとしたら、幅が広がらないな”と思って、懐石料理屋で和食の全般的なことを経験することにしました。懐石料理屋の板前って、焼き場とか、揚げ場とか、調理のポジションが変わっていくんですよ。いろいろなことができるようになるのが楽しくて、続けられたんだと思います。同期で同じ店舗に配属されたのは僕を入れて3人でしたが、1人は入ってすぐに辞めて、もう1人は数年後に辞めました。僕は一通りできるようになって、6年目くらいからは料理長の次の「2番手」を任されて、料理長が休みのときは、僕が料理長代理でしたね。そこからうなぎ屋に転職したのは、同じところで働くことに飽きたからだと思います。8年いると調理場の全部のポジションを経験しているので、そこからはもう同じことの繰り返しになるんです。次にやるなら専門的な料理がいいなと思ったのと、“もし父に何かあって実家に戻ることになったら、うなぎができないと大変だな”という思いもありました。
横浜のうなぎ店で10年修行された後、お父さまが体調を崩されたことをきっかけに家業を継いだとか。
3年くらい前、僕が38歳か39歳のときですね。父は自分から体調のことは言わなかったんですけど、一緒に働いて様子を見てきた母が「たぶんもう無理だ」と。それで、僕が実家に帰ってすぐに、父が心不全で入院したんですよ。当時、父は72歳。本当に働きすぎだったんだと思います。10年間修業して、串打ちから焼くまで一通りのことをできるようになって、“そろそろ次を考えてもいいんじゃないか”と思っていたので、心の準備はできていましたね。いくらうなぎ屋で修行していても一通りできるようになっていなければ、実家に帰っても父の仕事を代われないので、そういった不安がない状態だったのはよかったです。
150年以上守り続けてきた屋号とタレ
血縁は関係なく誰かが7代目を継いでくれたらいい
Uさんがお店を継いだ後、ご両親は引退されたのですか?
お客さんの前には出てないですけど、毎日厨房にいて、一緒にやっていますよ。僕がうなぎを焼いて、父と母は肝吸いを注いだり、お新香を盛ったり、ご飯を詰めたり、タレをかけたり、流れ作業の中にいます。1人じゃできなくなったことも2人で頑張ってやっていますね。父と引退の話をしたことはないですけど、もう75歳だし、“体がしんどいなら、働かなくていいのに”と思っています。でも、働かなくなると急に衰えてしまうかもしれない。だから、僕からは何も言わないです。“働きたいなら働いてください。働きたくないなら働かないでいいんです”という気持ちでいますね。
お父さまから「これは変えないでほしい」と言われたこと、Uさんがお店を継いでからやり方を変えたことがあったら教えてください。
「変えないでほしい」は言われていないですけど、「うちのタレの作り方は、ずっとこれでやってるから」と、口頭でレシピを伝えられました。僕はすぐ忘れちゃうので、メモにちゃんと残しています。
ただ父から直接うなぎの裂き方や焼き方を教わっているわけではないので、そのあたりは修行した横浜の店のやり方になっていると思います。父が一連の動きを数回見せてくれて、僕がやっているところを見せて、「じゃあもういい」と合格をもらった感じです。そこからは何も言われていないですね。やり方にちょっとした違いはあると思うんですけど、うなぎ職人以外の人が見たらまったく分からないんじゃないかな。
タレのレシピは継承されているんですね。次の7代目の継承について考えていることがあったら聞かせてください。
血縁は関係なく、誰かが継いでくれたらいいかなと思います。僕が店を続けるのが難しくなって、そのときに跡継ぎがいなかったら、誰か探すと思います。そういうマッチングサイトがありそうじゃないですか、そういうので募ってみようかなと思いますね。昔からの常連さんたちもいるし、調理道具もそろっているから、一からうなぎ屋を始めるよりも、うちの屋号とタレを引き継いだ方がラクだし、お得だと思うんですよ。
弟子を取って、最初から全部教えるのもありだとは思うんですけど、人を雇う余裕がないので、お給料が出せるかな……。まあ、そのときになったら考えます。僕、計画を立てすぎるとあまりうまくいかないんですよ。うまくいかなかったときのショックを避けるために、横に置いとこうって感じですね。そういうのが山積みです(笑)。
せっかくなら“自分の居心地がいい環境”に
だんだんと見えてきた、店主としての展望
お店を継いで3年がたちますが、プレッシャーを感じることはあるのでしょうか。
“お店を潰しちゃダメだ”とか、“代々続けなきゃいけない”というプレッシャーが実はあまりなくて。僕は天邪鬼なので、そうやって聞かれるから「ないです」と言っているのかもしれないですけど(笑)。あ、でも、“ちゃんとしたものを出したい”、 “自分が満足できる、おいしいものを提供したい”ということは常に思っていて、お店を続けていくことは、その延長線上にあるかもしれないですね。
今後、6代目として“ここを自分色に変えていきたい”という願望は?
細かいことですけど、今、使っているテーブルと椅子が小さくて、“なんかくつろげないな”って思うんですよ。でも、今のテーブルと椅子がこの店のサイズにぴったりなんです。なので、店を広くして、席数はそのままでいいので、大きなテーブルと椅子を置きたいですね。店を継いで3年たったけど、まだ“自分のお店”という感覚じゃないというか。完璧に僕の好きなようにはできていないので、まだ伸びしろがいっぱいありますね。
あとは、自分が主催する屋外のイベントで、うなぎを焼きたい。うちに来店する人は、基本的に常連さんか、年齢層が高い方なので、若い人にもうちのうなぎの味を知ってほしいですね。それに、ずっと同じ場所にいると飽きちゃうので、新しいこと、やったことがないことをやりたいなっていう気持ちがあるんだと思います。
最後に、「家を継がねば」というプレッシャーを感じている方は多いと思います。Uさんから声をかけるとしたら?
無理に継がなくてもいいと思います。僕は結局継いだんですけどね(笑)。まあでも、やってみたら意外と楽しかった、ということもあるでしょうし。何年かやってみて、好きになれなかったらやめる、という形でもいいと思います。何年かやっていれば、“もっとうまくなりたい”とか、“中途半端なものを出したくない”とか、プライドみたいなものが芽生えるかもしれないし、意外にいいことがあるかも。とりあえず、“継いでも継がなくても、どっちでもいい”と思いながらやってみて、それから決めてもいいんじゃないですか。やってみて、“まあまあやっていけるかな”という感じだったら続けたらいいと思います。
では、Uさん自身、このまま50代60代も家業を続けていくのでしょうか。
そうですね、続けようかなと思っています。今は3年目で、まだまだ新鮮なことがあって楽しいですが、だいたい10年間同じところで働くと辞めたくなるので、7年後はどうなっているかな(笑)。懐石料理屋やうなぎ屋で働いていたときは、“ずっとやるだろうな”とはみじんも思わなかったので、たぶん、やれるところまでやるんじゃないかなと思います。だから店を広くしたり、イベントをやったりしたいという欲がある。長くやっていくだろうなと思うから、自分の居心地がよくて、心から仕事を楽しめる環境にしたいと思っています。