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みんなの人生ピカっとのぞき見! Vol. 39

ライフステージの変化×キャリアのモヤモヤ! 私が“お母さん”に?歯科医師と子育ての両立を模索する、28歳の現在地

歯学部の大学生として6年間、研修医として1年間を経て、歯科医師になる夢を実現したTさん。27歳で妊娠が分かり、周囲より少し早く“母になる”選択をしました。キャリアの途中で訪れた想定外の妊娠に戸惑い、不安を抱えながらも、手探りで選択を重ねてきた日々。「本当に自分が“お母さん”になれるのかな」という問いの先に、今見えてきたものとは。

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PROFILE

T.Yさん

28歳

新潟県出身。大学の歯学部を卒業後、1年間の研修を経て大学院へ進学。研究と臨床を両立する傍ら、5年間交際したパートナーと結婚。翌年妊娠し、2025年10月に第1子である娘を出産した。現在は育児をしながら、歯科医師としてのキャリアを模索中。夫婦共にアウトドア派で、ドライブや旅行、温泉やサウナが好き。

充実したキャリアの途中で訪れた 
“母になる”という選択

歯科医師を志した理由を教えてください。

きっかけは、中学生のときに歯列矯正治療をしたことでした。歯並びがきれいになるだけじゃなく、笑うことが好きになったんです。自分の表情が変わる体験を通して、“歯科医師って、人の人生に関われるすてきな仕事なんだ”と思い、歯科医師を目指すようになりました。医師というと激務のイメージもありましたが、大学のオープンキャンパスで“ワークライフバランスが確保しやすく、女性が働きやすい仕事”と聞いて、背中を押されました。

歯科医師免許を得た上で大学院へ進んだ背景は何ですか?

歯科医師になるには、大学で6年間学んで国家資格を取得後、1年間は研修医として経験を積む必要があります。その先は医師として臨床に注力するか、大学院に入って研究を続けながら専門性を高めるかの大きく2択。私は勉強や実習に夢中で取り組む中で、“もっと専門的なスキルを磨き、どんな状況にでも対応できる武器を持ちたい”と思うようになり、大学院進学を決めました。現在は休学中ですが、研究室ではかみ合わせや咀嚼(そしゃく)に関する研究をしながら、併設の大学病院で義歯診療科(入れ歯を扱う診療科)に勤務し、臨床も担当しています。

パートナーさんとは同じ大学で、大学院1年目の夏に結婚されたそうですね。

彼は医学部、私は歯学部で学部は違ったのですが、同じ学年の方です。大学2年生のときから付き合い始めて、研修医1年目の冬、交際5年目の節目にプロポーズを受けました。学生時代から何でも話し合える関係で、結婚のこともその頃から話していたんです。「この先のキャリアを考えると、研修医の期間が一番時間はあると思うから、そのタイミングで結婚したい」という彼の言葉に、私も納得していました。2人が共に医師という忙しい職業を目指す以上、結婚や出産を決断するタイミングは意識して選ばないと、この先ずっと来ない気がして。“今だ”と思えたことに迷いはなく、素直にうれしかったですね。

当時、お子さんについてはどのように考えていましたか?

結婚については、“今”選択することにも前向きでしたが、出産は、“いつかはしたいけど、まだ先”という感覚でした。大学院では研究、診療、外勤(市内の開業歯科医院でのアルバイト)と毎日が精一杯。夫は「早く子どもが欲しい」と言っていましたが、私にとって“母になる”ということは、正直、漠然とした未来の話だったんです。そんなとき、入籍して半年ほどで妊娠が分かりました。もちろん時がたつにつれて、うれしい感情が浮かび上がってきたものの、最初は戸惑いの方が大きかったですね。研究の計画や学会発表のめども立ち、仕事が楽しくなってきたタイミングだったので、本当に予想外の出来事だったんです。

母やパートナー、友達にYouTube……
頼れる存在を見つけ、不安に向き合った妊娠期間

妊娠が分かったときは戸惑いが大きかったとのことですが、どんな不安がありましたか?

まず頭に浮かんだのは、研究と仕事のことでした。“大学院どうしよう”“研究が止まったらチームに迷惑を掛けてしまう”“復帰できるのかな”――現実的な不安が次から次へと出てきて。でも、それ以上に大きかったのが、「私、本当に“お母さん”になれるのかな」という漠然とした不安でした。“自分が子どもを育てる”というイメージが具体的にわいてこなかったんです。

妊娠初期からつわりも重く、勤務中に倒れてしまい、しばらく休学することに。思うように仕事ができず焦る気持ちの中で、職場の上司や教授、指導医の先生方の言葉に救われました。「無理をせず、体調が落ち着いてから今後を考えよう」と声を掛けていただき、“全部1人で抱えなくていいんだ”と思えたことは大きかったです。出産予定日は2025年10月。先生方に相談の末、9月から休学することを決めました。

出産直前まで研究と勤務を続けていたのですね。出産までの生活はいかがでしたか?

体調面で本当に苦労しましたね。つわりで家事もままならない状況に、“これ、いつまで続くの?”と終わりが見えず不安になりました。つわりがおさまったあとも立ちくらみが続き、お腹が大きくなってからは、腰痛にも悩みましたね。それもあって県内の実家で里帰り出産することを決めたのですが、体調に不安を抱えながらの産院選びや出産準備は、思いの外大変でした。

さらに“休みに入る前にできるだけ働いておこう”と無理をした結果、8月に切迫早産になってしまい……。後悔と同時に、身体が思うように動かないことで、気持ちまで落ち込んでしまって。周りの友達もまだ出産していない人が多いので、今の自分の状況について具体的な相談をできる人も少なく、よく母に電話していました。本当に仕事をすることが好きだったので、仕方がないことだと分かっていても、夫が仕事に行くだけで“いいな”と羨ましく思うこともありましたね。

妊娠期の不安や悩みとは、どのように向き合っていましたか?

その都度悩みながら、でも結局は、悩みの種類ごとに“頼れる人”を見つけて、なんとか乗り切っていましたね。夫は同職ということもあって価値観が近く、育児や生活については夫に。今後のキャリアについては大学の先生や、出産経験のある女性の先生に。母や小さな子どもがいるいとこにも話を聞いてもらいました。

SNSやYouTubeにも助けられました。特に助産師さんが投稿している動画は、妊娠や出産の“あるある”についてよく取り上げていて、“つらいのは私だけじゃないんだ”と思わせてくれる存在でした。ただ、多様な情報を見すぎると逆に不安になることもあって。“〇〇じゃないとダメ”といった極端な言葉に、振り回されそうになることも。だから途中からは、“ネット情報は参考にするけど、信じすぎない”距離感を意識するようになりましたね。

こうしてたくさんの悩みや不安と向き合いましたが、臨月に入ると胎動も強くなり、“早く会いたい”という気持ちが少しずつ強くなっていきました。あるとき、 “陣痛の最中は生まれてくる赤ちゃんが一番苦しい”と聞いて、“私よりこの子の方がずっと大変なんだ”と気付いたんです。それから、出産という得体の知れないものへの恐怖が、 “一緒に頑張ろう”という前向きな気持ちに変わっていきました。

“大切なもの”が増えて見えてきた 
仕事と人生の新しいバランス

出産は、Tさんにとってどんな経験でしたか?

怖さはありましたが、いざそのときが来ると“もう産むしかない”と腹をくくれました。結果的には思っていたよりスムーズで、陣痛から9時間で出産。初めて娘に会ったときは感激して、“ああ、あなただったのね”と。10ヵ月間、お腹の中でずっと一緒にいて、仕事でつらいときも“一緒に頑張ろうね”と話し掛けながら過ごしてきたので、ずっと一緒にいたのに初めて会うという、不思議な経験でした。

出産後、心境にはどんな変化がありましたか?

妊娠中は、“母になる実感”はほとんどなかったんです。でも産んでから少しずつ、“この子を守らなきゃ”という気持ちが芽生えてきて、その積み重ねの中で、“あ、私お母さんなんだ”と、ようやく実感するようになりました。

仕事への考え方もかなり変わりましたね。妊娠前は“早く復帰しなきゃ”“周りに遅れたくない”と考えて、次の4月から保育園に預けるつもりだったんです。けれど娘に対面したら、本当にかわいくて、ずっと一緒にいたくて。“預ける”と考えただけで涙が出てしまって(笑)。そんな自分の気持ちの変化に一番戸惑いました。頭では分かっているのに、気持ちが追いつかない。けれど、それも“母としての感情”が育っている証しなんだと思っています。

今は育児に専念されているそうですね。育児が始まってから、大変なことは?

“自分のタイミングで過ごせない”ということが、こんなに大変なんだと初めて知りました(笑)。3時間おきの授乳による睡眠不足、娘と24時間一緒で誰とも話すことができない日があるなど、時には疲れて気持ちが沈むこともあります。

そんなときは、気分転換として友達や母に電話で話をします。夫も家事や育児にとても協力的で、帰宅後はほとんど娘を見てくれています。体力的に厳しいですが、気持ちの面では周りの人にかなり助けられていますね。

歯科医師としての復帰は、今どのように考えていますか?

職場の先生方から「まず研究だけ進めよう」と言っていただけて。復帰後いきなりフルで働くことはせずに、4月から短時間保育で保育園に預けて、週1、2日だけ大学院に復帰することを決めました。母からの協力を得ながら自宅保育を続けることも検討していたのですが、市役所の職員さんや家族と相談したところ、今後研究や実験などの私の都合や母の仕事の都合で急に預け先が必要になる可能性も考えて、頼れる場所を増やすという意味でも保育園に入園しておいたほうがいい、という結論に至ったんです。もう少しこの子と一緒にいる時間を取ると決めてから、気持ちがかなり楽になりました。

とはいえ夫の仕事の性質上、これからも私の方が育児や家事の比重は大きくなりそうです。復帰したとしても今まで通りの働き方はできず、きっと諦めなければいけない部分も増えると思います。
でも最近は、仕事と家庭のすべてを完璧にやろうとしたり、どちらか一方を選ぼうとしたりしなくてもいいんじゃないか、と考えるようになりました。やることを細かく分けて、“今の自分にできること”“今はできないこと”を見極めながら、その時々の形で続けていけばいい。そう思えるようになったのは、周りの先生方や家族の支えがあったからこそですし、自分自身にとっても大きな変化だと感じています。

これから、親として、そして歯科医師として、どんな人生を歩んでいきたいですか?

仕事で早く預けることになっても、親子の時間をきちんと取って、愛情を注いでいきたいと思っています。娘には、人の気持ちに寄り添える優しい子に育ってほしいですね。

歯科医師としては、患者さんの気持ちに寄り添い、小さなことでも、気軽に話せるような存在になりたい。いずれは開業も考えていますが、第2子のことなども含めて、キャリアについてはこれからゆっくり考えていきたいです。

今までは、自分の目標に向かって突き進むことが人生の軸でした。でも娘が生まれて、“守りたい大切なもの”がもう一つ増えた。これからは、その両方を大切にしながら、その時々でバランスを取りつつ、自分が納得できる選択を一つひとつ積み重ねていきたいと思っています。

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