ジェンダー×自分らしさのモヤモヤ! 自己と向き合い、同性パートナーに出会って見つけた自分の居場所
幼い頃から周囲に溶け込もうと、“良い子”を演じてきたIさん。20代半ば、仕事に打ち込みすぎて心身が限界を迎えたことをきっかけに、自分の気持ちを見つめ直すように。現在のパートナーと出会ったことで、少しずつ“本音で生きる”感覚を取り戻せたそうです。悔いのない人生を生きたい――自分の気持ちに素直になった結果、彼女が見つけた“自分らしい生き方”とは?
PROFILE
I.Sさん
30代
新卒で入社した会社でデザイン部門(映像・グラフィック・写真)を担当しつつ、1年前から画家としての活動を本格化。旅好き同士が集うコミュニティでの出会いをきっかけに自己理解が進み、現在は同性のパートナーと同居中。法律上の婚姻関係は結んでいないものの、25年9月にパートナーとの間で”婚約”状態に。来年2月の挙式に向け準備を進めている。

家族にも友達にも出せない“自分らしさ”
ずっと抱えていた孤独と違和感
Iさんは“自分らしさ”の表現に悩んできたと伺いました。子どもの頃は、どんな性格だったのでしょうか?
根は内向的でしたが、その場の空気を読むのが得意で、状況に応じて明るく元気に振る舞うこともできる子どもでした。どこか大人びていて、周りの大人たちの表情や行動を観察するようなところがありましたね。
一方で、姉は愛嬌があって大人たちにかわいがられるタイプ。親から直接言われたわけではありませんが、「お姉ちゃんができるんだから、あなたもできるでしょ」という期待を自然と感じ取っていた気がします。私自身も姉のことは大好きで、何でも彼女のまねをしていました。でもそれがいつの間にか、“姉のようにならなきゃ”と意識しすぎるようになってしまい……。素の感情や自分らしさを表に出せず、どこか窮屈な気持ちを抱えていました。
素直な自分ではいられない“生きづらさ”を感じる出来事は、他にもあったんですか?
家族とは仲が悪いわけではありませんが、“どうしてこう感じるんだろう?”など、物事の本質や原理を哲学的に考えたい私と、そうではない家族とでは少し話がかみ合わなくて。素直に本音を出すのは難しく、家の中で、自分だけ少し浮いているような感覚がありました。また私は、納得できないことがあると、たとえ親が相手でもその矛盾を指摘してしまう性格だったので、父からはよく「女の子なんだから、もっと優しくならなきゃ」と注意されていましたね。私は父が言う“女の子らしい”振る舞いが苦手だったので、そのたびに“自分はダメなんだ” “どうしたら家族に受け入れてもらえるんだろう”と悩んでいました。
何気ない会話の中に違和感を抱くことがあったんですね。学校など他のコミュニティでは、どのように過ごされていましたか?
学校には、あまり気を許せるような子はいなかったですね。恋バナやゴシップで盛り上がる友達とは話が合わないなと感じていました。哲学的な話をしたい私は、クラスでも“浮いた”存在だったんです。次第に、周りに溶け込むために自分から話を振るのをやめ、“明るくて面白い自分”を演じるようになりました。学校でも家でも、気づけばいつも周りに合わせてばかり。“理解してもらえそうにないし、別に自分のことを話さなくてもいいや”と、本当の自分を出すことをどこかで諦めていたのかもしれません。
パートナーと出会い、
人生で初めて“本当の自分”と向き合えた
そんな違和感や孤独感を抱えていたIさんが心を開くきっかけとなったのが、現在お付き合いされているパートナーだとお伺いしました。どんな出会いだったのでしょうか?
高校時代の友人が参加していた“旅のコミュニティ”に入ったことがきっかけです。当時、私は仕事に追われて体調を崩し、生理が止まるほど追い詰められていて。お金はあっても、全然幸せじゃない。涙が止まらなくなり、このまま消えてしまいたいと思うほど、精神的に限界を感じていました。
そんなとき、友人がそのコミュニティですごく楽しそうに活動している姿を見たんです。家でも会社でもない新しい居場所を探したかったし、これまでの人間関係や自分のあり方を見つめ直したい気持ちもあったので、思い切ってそのコミュニティに入会しました。そこで出会った同期の1人が、今のパートナーでした。
勇気を出して行動した先に、今につながる出会いがあったのですね。どのように仲を深めていったのでしょうか?
最初は共感できる部分が多い“知り合い”という関係で、何度か顔を合わせるうちに、少しずつ“知り合い”から“友達”になっていきました。一気に距離が縮まったのは、コミュニティのイベントのためにパートナーが上京し、私の家に滞在したときです。正直、人と一緒に住むなんて絶対に無理だと思っていたんですが、パートナーとは不思議と意気投合し、泊まりに来たその日に、気づいたら朝まで語り明かしていて。次の日からは、“早く会いたい”と自然と思うようになっていました。これまであまり理解されることがなかった、私の“なぜ”“どうして”と突き詰めて考えたくなる部分を自然に受け入れて、一緒に議論を交わしてくれたのが、とてもうれしかったですね(笑)。でもそのときはまだ、恋愛というより“やっと心を許せる親友ができた”という気持ちでした。
人生で初めて、自分らしくいられる相手に出会えたんですね!
そうなんです。イベントが終わったら彼女は家に帰るはずだったのですが、「居心地がいいから」と結局1ヵ月くらいうちに滞在していました。でも、一緒にいるのが当たり前になってきた頃、私が3ヵ月の出張に出ることになってしまったんですよね。離れるのがつらくて、出発の日は2人で号泣しながらハグをしました。
出張中も毎日寝落ちするまで電話をして、そのうち、やっと自分の気持ちを自覚するようになっていきました。私はもともと同性の方が恋愛対象になるということを意識してはいなかったのですが、彼女と過ごしていくうちに自分の気持ちに気付くことができたんです。でも、お互い恋愛下手すぎて、なかなか言葉にできなくて……。「好きってことだと思う。あなたと家族になりたい」と、ちゃんと気持ちを伝えられたのは、彼女が初めて家に泊まりに来てから半年ほどたった頃でした。
何が、気持ちを伝えるきっかけになったのでしょう?
人生経験を重ねるうちに、“いつ何が起こるか分からない”という実感が強まっていたことが大きいですね。私自身、かなり追い込まれていたときは駅のホームで“このまま消えていなくなりたい”と思うことがありましたし、姉も鬱になり別人のように変わってしまった時期があった。叔父は、仕事のストレスが原因で亡くなりました。自分の身や心にいつ何が起きるかは、自分だって分からないことがある。だからこそ、“生きているうちにできることを全部したい”“周りがどう思うかなんて関係ない。悔いなく生きたい”と、強く思うようになったんです。
周りに合わせず、そのままでいい
やっと見つけた“自分らしい幸せ”
大切なパートナーとの関係を、ご家族には伝えましたか?
最初に話したのは姉でしたが、「へえ、そうなんだ。よかったね」と自然に受け入れてくれましたね。次に伝えた母も驚くことなく、「紹介したいくらいの人ができてよかったね」と。家族から何を言われても自分の気持ちは揺らがないという自信があって、泣かれたり拒絶されたりする覚悟もしていました。でも実際は、父も含めて全員静かに聞いてくれて、自分の思いを理解してもらえて本当にありがたかったです。
とはいえ、全てが順調だったわけではありません。最初に報告したときは特に問題がなかったものの、パートナーとの“婚約”の報告をしたときは、姉が結婚したときとは異なり、家族から「おめでとう」がなくて正直ショックでしたね。後日、2人で実家に挨拶に行ったときも、父からは「女性2人でやっていくことを正直まだ認められないし、感覚的にも理解できない。手放しには喜べない」と言われました。それでも、最後には「2人が幸せなら、それでいい」と言ってくれて。親としての葛藤はあるけれど、なんとか受け入れようとしているのかなと思います。
パートナーの方が同性であるということは、ご家族以外へ報告されたんですか?
はい。祝福してくれた友達からは、むしろ「今まで気づけなくてごめんね」と謝ってくれる子もいて、自分が思うより世間は意外とリベラルなんだと実感しました。それから、「あなたが幸せを見つけてくれて、よかった」と言ってくれる人もいました。
そのとき、ふと思ったんです。“信用していなかったのは、むしろ私の方だったのかもしれない”って。みんな私のことをちゃんと見てくれていたのに、“どうせ分かってもらえない”と決めつけていたのは私でした。友達と改めて出会い直した、そんな瞬間だったと思います。
パートナーと出会って、価値観や生き方に変化はありましたか?
これまでは、周囲に合わせて“自分らしさ”を閉じ込めて生きてきました。でも、今のパートナーは、どんな私を見せても受け入れてくれ、「あなたらしくてすてきだね」と言ってくれる。私の本質を真っすぐに見てくれるこの人のおかげで、私は自分を肯定できるようになりました。
パートナーは、人の心の機微や場の雰囲気を読み取るのがあまり得意ではありません。でもその分、他人の価値観やルールにとらわれず、自由に発想できる人。その姿を見て、“人と違ってもいい”と学びました。彼女と出会うまで、男性とお付き合いすることが “普通”のことだと思っていたのですが、今は人を好きになることに垣根はない、どんな形でもそこに差はないのだと感じています。
振り返ると、これまでの人生は“居場所探し”の連続だったように思います。家族の中でも、学校でも、“ここが自分の場所だ”と思えるところがなかった。“私は生涯、孤独なのかもしれない”――そんなふうに考えていた時期もありました。でも今はもう、その不安はありません。やっと、自分のままで生きられる場所を見つけられた気がしています。朝、目が覚めて隣に好きな人がいる、夜眠るときに隣にいる――そんな当たり前の時間が、今はとても幸せです。